蜘蛛の糸
「光は暗闇の中で輝いている。暗闇は光を理解しなかった。」(ヨハネ1:5)
クリスマスと言うと、何か牧歌的なイメージを思い浮かべるところがありますが、現実はまさに激動の時代だったと思います。
皇帝の勅令で身重の女性も、有無を言わせず長旅を強いられ、旅先で生まれた嬰児が飼い葉桶に寝かされるような時代です。時の為政者ヘロデ王の心に生じたちっぽけな「不安」のために幼児の大虐殺が行われ、イエスさまの家族も、「政治難民」としてエジプトに避難しなければならなかった時代です。
そのような意味でも、闇の深い暗闇の時代でした。
クリスマスの時期になると思い出すお話があります。芥川龍之介の『蜘蛛の糸』です。
地獄の底で多くの罪人がうごめいている中にカンダタという男がいたと語り始めます。彼は人殺しや放火をした大罪人でしたが、一度だけ蜘蛛を殺さずに助けたことがあったので、お釈迦様がこのことを思い出し、彼を救うために地獄に蜘蛛の糸を垂らしたというお話です。
まことの主なる神さまは糸だけ垂らし、それで善しとする方ではありません。神さまは、赤ちゃんの姿となって、その闇に飛び込んできてくださったのです!
カンダタのような私たちと共に生きることを決意なさって、地獄のようなこの闇深き世界に飛び込み、喜びと悲しみを分かち合い、十字架の死と復活をもってほんとうの救いの道をひらいてくださったのです。その始まりの祝いがクリスマスなのです。
そのことを心に抱いてアドベントの期間を過ごしていきましょう。
いってらっしゃい。
牧師 松本雅弘