簿記の世界は美しい

「何をするにも、人に対してではなく、主に対してするように、心から行いなさい。」 (コロサイの信徒への手紙3章23節)
 ある会計士は「簿記の世界は美しい」といいます。複式簿記は単なる数字の羅列のように見えますが、組織の一定期間の商業活動を表し、数字の背後にはさまざまなストーリーや意味を見出せるうえに、必ず貸借が一致する美しく論理的なシステムです。その簿記の歴史をたどると、イタリア・フランシス修道会のルカ・パチオリという人の存在が浮かびます。「近代会計学の父」と呼ばれたルカ・パチオリは1445年イタリア・トスカーナに生まれ15才のころより、資産家の家に丁稚奉公し、やがて遠近画法の大家フランチェスカに数学を学びました。19才でヴェネツィアの豪商の家で家庭教師をしながら生計をたてましたが、この豪商が亡くなったことをきっかけに、聖フランシス会の修道院入りを決意しました。当時の聖フランシス会は、現世の社会に寄与することも「神への奉仕」として尊重していたため、彼の才能は用いられ、修道士でありながら大学で数学の教鞭をとるようになりました。そして彼が書いた『スムマ』(1494著)は、複式簿記が体系化された書で、経済が複雑化しながら発展していたヨーロッパ中に広まったのです。彼はイタリア各地の大学に招かれ教鞭をとりましたが、自らは決して数学者とは名乗らず「修道士ルカ・パチオリ」と名乗りました。当時の彼に対する評価は「野心家」や「実直」というものがありますが、共通していたのは「敬虔な人」でありました。彼は「人は仕事をすべて神の御名において始めなければならない」と言い残しています。ルカにとって「簿記」という人間の営みを記録する秩序も、神の摂理を表現していると考えていたのではないでしょうか。 使徒パウロは、何においてもイエスさまにするように振る舞いなさいと教えています。ルカ・パチオリは、修道院の中ではなく社会においていろいろな人々と関わりをもちました。私たちが世の中において、「もしこの人がイエスさまであったなら」と考えたとき、私たちの接し方は大きく変わるでしょう。相手に敬意をもち、柔和に話をし、自分の意に反しても怒らず思慮深く振る舞うでしょう。
《祈り》光の源である主よ、あなたは明るい陽射しの中ではなく、暗闇の中に光を放ってくださいました。あえて暗闇の中へと分け入り、羊飼いたちが野宿をしていた夜の闇に光を放ってくださったのです。私たちも、この世の闇に光を灯すことができますように。
牧師 和田一郎
ご感想は下まで(スマホ・パソコンの方向けです) forms.gle/EkE9N8gDaJQ7ee2L9
発行者名 高座教会 www.koza-church.jp/