涙の子は滅び得ない

「涙と共に種を蒔く人は 喜びの歌と共に刈り入れる。」 (詩編126編5節)
 アウグスチヌス(354-430年)はキリスト教を代表する初期の神学者で、プロテスタント教会が生まれた宗教改革も、アウグスチヌスの神学に立ち戻ろうとしたと言われるほど、後に影響を与えた人です。アウグスチヌスは自伝『告白』の中で、自分が信仰を持つに至るまでに、母モニカの涙の祈りがあったと書き残しました。 モニカは、息子アウグスチヌスがマニ教へと足を踏み外して行こうとする時、ある教会の司祭に、どうか息子と話して彼の間違いを悟らせ、正しい信仰に導いてほしいと頼むのです。すると司祭は、「いま息子さんはマニ教に入ったばかりで夢中だから、いま話しても彼は聞かないでしょう。むしろそのままにしておいて、彼のためにただ祈りなさい。彼自身がやがて自分の間違いに気付くでしょう」と言うのです。 母モニカはそれを聞いて「いやそれでは安心できません。何とかお願いします」と、泣いて、泣いて、泣き通しながら「どうか私の息子を説得して下さい」と懇願しました。すると司祭は、少々怒って言ったのです。 「お帰りください。あなたは誠に真実に生きています。このような涙の子は、滅び得ないのです。」これが有名な言葉「涙の子は滅び得ない」となりました。母モニカは、これを天からの声のように聞いたといいます。それから、アウグスチヌスは遠回りもしましたが、ついにキリスト教の洗礼を受けたのです。自分が洗礼の水を受けて濡れた時、ようやく母の大地を濡らした溢れるような涙は乾いたのだと語り、神さまは彼女の涙を歓喜へと変えてくださったと書き残しました。それは母親の賜物ではなく、母に与えられた神の賜物だったのだと天を見上げて感謝しました。 「涙と共に種を蒔く人は 喜びの歌と共に刈り入れる。」主なる神さまは、涙しながら神殿のある都エルサレムに上って礼拝しようとする者に、涙のままで帰らせることはなかったのだと詩編の詩人は歌うのです。
《祈り》主よ、泣きながら重い種の袋を背負ってきた人を、あなたは慈しみをもって迎えてくださいます。そして泣きながら出て行かせることは、なさいません。必ず豊かな穂の束を背負わせ、喜びの歌と共に帰らせてくださいます。主の慈しみに感謝いたします。
牧師 和田一郎
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