リチャードソンの夢

「あなたがたのうち、塔を建てようとするとき、造り上げるのに十分な費用があるかどうか、まず腰を据えて計算しない者がいるだろうか。」 (ルカによる福音書14章28節)
 偉大な夢はかなわなくても功績として残る。 L・F・リチャードソンは気象学者で、物理法則に基づいた膨大な計算によって天気を予測しようとしました。つまり現在使われている数値予報の原理を思いついたのです。大気の状態は、温度・湿度・気圧・海水温・引力など、多くの要素が複雑に関わり合っています。そのため、当時の人間の力では到底計算しきれないと思われていました。しかし彼は、「六万四千人が大きなホールに集まり、一人の指揮者の下で整然と計算を行えば可能だ」と考えましたが、コンピュータの存在しない1920年当時、それはかないませんでした。それが「リチャードソンの夢」です。 彼は第二次世界大戦中、看護兵としてフランス戦線に従軍しました。砲弾が飛び交う中で負傷者を運びながらも、気象予測の計算を続けたという情熱の持ち主です。彼が看護兵だったのは、徹底した平和主義を掲げるプロテスタントの一派、クエーカー教徒だったためです。信仰上の理由から兵役を拒否し、良心的兵役拒否者として救急任務に就いていました。彼の夢はコンピュータの誕生によって実現し、今の気象予測の基礎となりました。 さらにリチャードソンは、「計算」によって平和を実現できないかと考えました。ある国が軍備を増強すれば、他国も対抗して軍備を増強する。その結果、互いの国力は疲弊し、時間とともに争いはエスカレートしていく――彼は戦争の危険を数学的に示そうとしたのです。クエーカー教徒である彼は、平和を計算と信仰の両面から追い求めました。 イエスさまは、塔を建てる前に費用を計算するように語られました。それは、現実から目を背けず、責任をもって歩む知恵の大切さを教える言葉です。しかし同時に聖書は「何のために計算するのか?」を問います。利己的な目的なのか。神の国を築くためなのか。リチャードソンは命を守るために、夢の計算式を探求したのです。
《祈り》主なる神さま。あなたはこの世界に美しい秩序を与えてくださいました。数式という秩序を、平和を築くために用いることができますように。
牧師 和田一郎
ご感想は下まで(スマホ・パソコンの方向けです) forms.gle/EkE9N8gDaJQ7ee2L9
発行者名 高座教会 www.koza-church.jp/