谷川岳のギボウシ

「なぜ、衣服のことで思い煩うのか。野の花がどのように育つのか、よく学びなさい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる。」 (マタイによる福音書6章28-30節)
 夏休みに家族で谷川岳に登りました。「あの魔の山に家族で?」と思われるかもしれません。谷川岳は世界で最も多い遭難死者を出す山としてギネスにも登録されています。しかし、我が家で登った一般の登山道は初心者にも親しみやすく、谷川岳は「花の山」とも呼ばれています。夏の登山道には、険しい岩の隙間にもさまざまな花が咲いていました。 「きれいだなぁ、何という花だろう」と写真を撮っていると、妻が「それ、ギボウシでしょ。家の近くにも咲いているじゃない」と言いました。こんな高い山に、町で見かける花が咲いているはずはないと思いましたが、調べてみると、確かにギボウシでした。 谷川岳は標高1977メートル。特別に高い山ではありませんが、豪雪と厳しい風のため、標高1500メートル付近で森林限界を迎えます。だからでしょうか、高山植物と、ギボウシのような町でも見かける草花も一緒に見られるようです。近所で見かけても何とも思わず通り過ぎていた花なのに、山で咲く姿を見ると「がんばってるなぁ」と変な感傷にひたってしまいました。 斎藤茂吉も、夕方になってポツンと一本咲いているギボウシを見て詠みました。 「擬宝珠(ギボウシ)の 長き花茎の ひとつ立ち 日のゆく道に 傾きはじむ」 イエスさまは、「野の花をよく学びなさい」と言われました。それは足を止め、その小さな命を支えておられる「神の働きを見つめなさい」というのです。神の恵みという花は高い山にだけ咲いているのではありません。いつもの道、身近な場所、繰り返される日々の中ですでに咲いています。私たちは、それに気づかず通り過ぎているのかもしれません。 今日、少しだけ立ち止まって、身の回りを見つめてみましょう。厳しい風雪の中でも花を咲かせてくださる神さまは、私たちの足元にも、小さく可憐な恵みの花を備えてくださっているはずです。
《祈り》野の花を美しく装ってくださる神さま、見慣れた日常の中にある恵みに気づく目を与えてください。私たちを野の花へと目を向けさせ、今日も養ってくださるあなたに信頼させてください。
牧師 和田一郎
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