ヘイルメリーパス

「マリアは言った。『わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。』」（新共同訳） （ルカによる福音書1章38節）
　アメリカンフットボールのプレイの中に「マリアの祈り」というプレイがあるのを知っているでしょうか？「ヘイルメリーパス」というそうですが、試合に負けているチームが残り時間がもうないという絶望的な状況になった時、イチかバチかのパスを逆転をねらって放つロングパスです。ほんのわずかな望みをかけ、神さまの助けなしにはとうてい成功しないと思って投げるわけです。このヘイルメリーという言葉は、マリアのお腹にイエスさまが宿った時、天使がその事をマリアに告げた時に懸けた言葉が「おめでとうマリア（hail ヘイルメリー）」（ルカ1:28）だったことが由来なのだそうです。このイチかバチかの時に祈りの言葉を使うというのは、その背後にあるのは、試合の大半は自分の力でやれるという考えがあると思うのです。自分の作戦と自分のパフォーマンスを頼って試合に臨む。しかし、試合終了間際になってなす術がない、作戦も体力も尽きた時、そこで祈るように投げるのです。最後の頼みは「祈り」というわけです。 「祈り」というのは、神と人間の姿が露わになったところに現れてくるものです。神さまという絶対的な大きな存在があります。そこに向かい合った人間はちっぽけな存在です。欠けだらけですし、命にも限りがありますし、一人で生きていくことは出来ない存在です。それゆえに外見を装ったり、名誉を求めたり、他人と比べて安心を得ようとします。そんなことに一生懸命になっているのが人間です。その自分の無力さを自覚するところから、祈りが始まるのです。「ヘイルメリーパス」は、まさに「もうこの私の力では成すすべがありません」という、祈るようなプレイなのです。 マリアは「わたしは主のはしためです」と「はしため（奴隷や給仕を意味する）」という言葉で自分の小ささを自覚しつつ祈りました。まだ婚約中で男性を知らない者が子を身ごもるなど信じられないことですが、神さまの御心ならばこの身に成りますようにと祈ることで心の平安を得ました。祈りは何よりも神の前に自分の小ささを素直に認めることから始まり、そこに恵みが与えられるのです。
《祈り》私は何ものでしょう。こんな小さなものに、あなたが目を向けてくださるとは。主は、高ぶる者を退け、へりくだる者に恵みをお与えになることを知りました。あなたにより頼みます。
牧師　和田一郎
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